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浦和地方裁判所 昭和56年(ワ)810号 判決

原告

明朗舎無線電気株式会社

右代表者

栗原伸一

右訴訟代理人

吉田武男

被告

内田康雄

右訴訟代理人

木津川迪洽

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者双方の求める裁判

一  原告訴訟代理人

(一)  被告は、原告に対し金一九八万四、五九〇円及び内金一八四万八、九九〇円に対する昭和四九年一月一日から、内金一三万五、六〇〇円に対する同五六年七月二六日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

(三)  仮執行宣言。

二  被告訴訟代理人

主文同旨。

第二  当事者双方の主張

一  請求原因

(一)  原告と訴外栗原修一は、昭和四八年五月ころ被告から分筆前の埼玉県南埼玉郡菖蒲町大字菖蒲字西堀八四三番一、田四三九平方メートルのうち四一八平方メートルを、代金は3.3平方メートルにつき金六万六、五〇〇円の割合による金員とし、後日地積を実測のうえ右代金を精算する約定のもとに買い受けた。

(二)  その後右土地については、原告と右栗原間において、そのうち一三二平方メートルを訴外人において、残余を原告において各取得する旨の合意がなされ、次いで被告は、昭和四八年八月ころ同所同番一、田二八五平方メートル(以下、本件土地という。)及び同番七、田一三二平方メートルに分筆したうえ、前者を原告に、後者を栗原へと各所有権移転登記を経由した。

(三)  原告及び栗原は、右土地の面積が約定どおりに存するものと信じ、昭和四八年五月ころから同年一〇月ころまでの間、被告に対し3.3平方メートルにつき金六万六、五〇〇円の割合による合計金八四二万五、〇〇〇円を代金として支払つた。

(四)  ところが、原告は、昭和五六年二月ころ本件土地を他に転売しようとしたところ、相手方から右土地が公簿面積より不足することを指摘されたため、同年七月ころ測量を余儀なくされ、その費用として金一三万五、六〇〇円を支出した。

(五)  右測量の結果、本件土地の実測面積は200.56平方メートルであることが判明し、原告は、代金算出の基礎とした面積二八六平方メートル(前記四一八平方メートルから訴外人の取得した同番七の地積を控除したもの。)から右面積を控除した85.36平方メートル(右計算に誤りがある。約25.86坪)が不足することとなり、その代金金一七一万九、六九〇円が過払いとなる。

(六)  原告は、右土地につき契約後間もない昭和四八年中埋立業者に対し3.3平方メートルにつき金五、〇〇〇円の割合による代金で本件土地の埋立を依頼し、右地積不足分に相当する埋立代金一二万九、三〇〇円の支出を余儀なくされた。

(七)  以上の過払代金金一七一万九、六九〇円、過払埋立代金金一二万九、三〇〇円及び測量費金二二万五、六〇〇円合計金一九八万四、五九〇円は、本件土地の面積不足の結果原告の被つた損害である。よつて、原告は、民法五六五条に基づいて、被告に対し金一九八万四、五九〇円及び右過払代金、過払埋立金合計金一八四万八、九九〇円に対する支払後の昭和四九年一月一日から、右過払測量費金一三万五、六〇〇円に対する本件訴状送達の日の翌日である同五六年七月二六日から各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため、本訴請求に及んだ。

二  請求原因に対する認否並びに被告の主張

(一)  請求原因(一)の事実のうち、後日地積を実測のうえ代金を精算する約定があつたとの点を否認し、その余の事実を認める。

被告は、原告及び訴外栗原に対し分筆前の八四三番一、田、四三九平方メートル(登記簿上の面積)から当時すでに国に売却していた20.86平方メートル(後に、同番六、田、二〇平方メートルとして分筆した。)を控除した四一八平方メートルの土地を売り渡したものであつて、原告の主張するように、数量を指示して売渡したものではない。

(二)  同(二)の事実を認める。

(三)  同(三)の事実のうち、売買代金が金八四二万五、〇〇〇円であつたこと及び右代金は昭和四八年五月から一〇月まで分割完済されたことを認めが、その余の事実は知らない。

(四)  同(四)の事実は知らない。

(五)  同(五)の事実を否認する。

仮に、原告の測量時に本件土地の面積が不足していたとしても、それは売買契約締結後の事情に基づくものであつて、右契約当時不足していたものではない。すなわち、右契約締結時には本件土地の面積は契約のとおりに存在し境界標も正確に埋められたが、その後の埋立、宅地造成により右境界標が移動又は埋没され、周囲の土地から侵食されて面積不足が生じたのである。

(六)  同(六)の事実は知らない。

仮に、原告主張のように、代金の過払があつたとすれば、それは工事を施行した者にその返還を請求すべきである。

(七)  以上の次第であるから、原告の本訴請求は、失当として棄却さるべきものである。

第三  証拠〈省略〉

理由

一原告と訴外栗原修一が昭和四八年五月ころ、被告から分筆前の八四三番一、田四三九平方メートルのうち四一八平方メートルの土地を、3.3平方メートルにつき金六万六、五〇〇円の割合による金員で買い受ける旨の契約を締結し、被告に対しそのころから同年一〇月ころまでの間に金八四二万五、〇〇〇円を代金として支払つたこと及びその後原告と訴外栗原との間において訴外栗原が右土地のうち一三二平方メートル、その余を原告が取得する旨の合意が成立し、同年八月ころ右土地は同番一、田二八五平方メートル(本件土地)、同番七、田一三二平方メートルに分筆のうえ、被告から前者については原告に、後者については訴外栗原に各所右権移転登記のなされたこと、以上の事実は、当事者間に争いがなく、〈証拠〉を総合すると、右分筆前の八四三番一、田四三九平方メートルの土地のうち右売買契約において除外された20.86平方メートルの土地は、被告において同四七年一一月二一日訴外埼玉県に対し交通安全施設歩道整備工事に必要な土地として売渡し、同年八月三日右土地を同番六、田二〇平方メートルとして分筆した(その結果同番一の公簿上の地積は四一八平方メートルとなつた。)こと及び本件土地の実測面積は200.56平方メートルであつて、同番七の土地のそれは132.25平方メートルである事実を認めることができる。右認定に反する被告本人の供述部分は、前顕各証拠に照らして措信できない。

二前示のとおり本件土地の実測面積はその公簿面積より84.44平方メートル不足することになるところ、原告は、本件土地売買契約は数量指示売買契約であると主張するので、この点について判断する。

〈証拠〉を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  被告は、昭和四八年五月中旬ころ、訴外大塚弥作に対し分筆前の前示八四三番一、田四三九平方メートル(公簿上)から既に埼玉県に売却した20.86平方メートルを除いた四一八平方メートルの土地の売却につき仲介を依頼し、同月三〇日同人が買受人として紹介した原告会社代表者を右土地に案内し、隣接土地所有者の立会を求めてその範囲を指示したうえ、交渉の結果、右土地の代金を3.3平方メートルにつき金六万六、五〇〇円と定め、同日同人からその内金として金一〇〇万円を受け取つたが、その際売買契約書も作成せず、実測面積が四一八平方メートルより多かつたり不足した場合についてなんらの取極めもしなかつたこと。

(二)  原告会社代表者は、右代金が多額に及ぶため、訴外栗原と相談の結果、右土地のうち一三二平方メートルは右訴外人、その余を原告会社において各取得することとし、その所有権移転登記手続を訴外大塚弥作に依頼し、同年六月七日原告に対し残余金のうち金五〇〇万円を支払つたこと。

(三)  右依頼を受けた大塚弥作は、所有権移転登記手続を司法書士訴外森田某に、分筆のための測量を訴外宇津城晃一に依頼した結果、右測量が同年八月六日には完了し、同月七日右土地を前示のように同番一、田二八五平方メートルと同番七、田一三二平方メートルとに分筆登記手続を終え、次いで同年一〇月九日前者を原告会社に、後者を訴外栗原に各所有権移転登記申請に必要な準備を完了したので、原告会社代表者及び右栗原は、買受人を右二名と変更するにつき被告の了承を得たうえ、被告に対し残金二四二万五、〇〇〇円を支払つたが、被告に代金として支払つた合計金八四二万五、〇〇〇円の金員は、売買契約の締結に際して取極めた単価3.3平方メートルにつき金六万六、五〇〇円に原告らに売り渡した土地四一八平方メートルの面積を乗じた金額に略々匹敵するものであること。

(四)  原告は、昭和四八年中被告から買い受けた本件土地に、訴外原土木をして3.3平方メートルにつき金五、〇〇〇円の割合により代金をもつて盛土をさせ、その後草を刈るなどしてこれを管理していたが、同五六年二月ころこれを他に売却しようとして訴外埼玉銀行にその売却を依頼したところ、同銀行より公簿面積より面積が不足していることを指摘されたため、同年三月及び同年七月ころ実測して始めて本件土地が公簿面積より84.44平方メートル不足していることを発見したこと。

右認定に反する証人大塚弥作、原告会社代表者、被告本人の各供述部分は前顕各証拠に照らして措信できず、他に右認定を動かすに足りる証拠は存しない。

惟うに、民法第五六五条にいう数量指示売買とは、特定物の売買において一定の数量の存することを契約の重要な事項として表示したものを指称し、これを本件のような土地売買についていうならば、面積の表示が売買の目的を達成するうえで特段の意味を有し、かつ、右地積が代金算定の基礎とされた場合と解するを相当とするところ、前叙認定事実によれば、原告会社は、被告と前示土地売買契約を締結するに際し、その実測面積がその公簿面積から埼玉県に売却した土地の面積を控除した面積四一八平方メートルより過不足の存した場合についてなんらの取極めもせず、また、本件土地の分筆、所有権移転登記手続を経由しながらもその面積を実測せずに経過し、しかも、右売買契約締結後実に八年も経過して始めて本件土地の実測面積が84.46平方メートルも不足していることを知つたというのであるから、右土地売買契約において表示された前示土地四一八平方メートルの面積は、右売買契約の目的を達するうえで特段の意味を有したものと認めることはできない。

そして、右契約において本件土地を含めて表示された四一八平方メートルなる面積が代金決定の基礎にされたことは、前に認定したとおりであるが、原告会社代表者が右土地売買契約締結に際し、被告から買い受ける土地の範囲を指示されたとの前叙事実に徴すると、右面積の表示も、代金額決定の基礎に止り、それ以上の意味を有するものと認めることも困難である。

そうすると、本件土地売買契約は、数量を指示してなされたものとは認められないから、原告の右主張は失当であつて採用することができない。

三以上の次第であるから、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを失当として棄却すべきものである。よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(長久保武 大喜多啓光 板野征四郎)

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